【質問】初心者なんですが、すぐにアルパインクライミングができますか?

【回答】経験と技量によります。運動能力、体力、理解力も関係します。

 

 参考までに「岩登りはまったくの初心者だけど登山は数年以上の経験があり、1年に25回くらい(毎月2回くらい)は山歩きをしていて、長期の休みには単独でのテント山行もこなしています」という方の場合。

 この場合、必要なのは「ロープワーク」と「岩を登る」練習です。

 どのくらいで身につくか、というと、習得にはやはり個人差があります。一般的には「最低月一回の岩トレを1年間続けてなんとかギリギリ、バリエーションに参加可能」と言われています。人によっては月一度では忘れる速度の方が早いため、できれば毎週どこかでロープに触る機会(インドアジムでのリードクライミング)を設けておきたいところです。

 

 一方、まったく登山の経験がない、ハイキングすらも一人ではいけない、という初心者の場合は・・・

 まずは地図をしっかり読めるようになりましょう。

 地図が読めて破線ルートでも藪山でも自由に歩けるようになると、登山が面白くなり毎週のように出かけたくなる時期がきます。その時期にはしっかり歩きこんで、経験値を上げるチャンスです。

 最初は興味関心に応じて登ればいいと思いますが、雪山や沢、岩登りのクラシックルートなどを志向するのであれば、同じルートばかり登る、あるいは行き当たりばったりに登る、というよりも、山域を決めて主要ルートを歩き尽くすような計画も考えてみましょう。

 そんな状態が2, 3年も続くとロープを使った登山に興味が出てくるころですので、岩トレを始めるのに最適です。歩いているうちに自発的に目的のルートが生まれたら、岩稜なら北岳バットレスとか前穂北尾根とか、沢なら米子沢や小川谷廊下など、具体的に目的ルートを設定して岩トレを続けましょう。

 目的ルートが力量に合っているかどうか、リーダー部とコミュニケーションを取ることをお忘れなく。会山行や集会その他、やはり顔をみて話す機会が一番意思疎通がしやすいのは言うまでもありません。うまくコミュニケーションをとって、最適なルートを選定し、目標にしましょう。力量からあまりに外れているルートに固執しても安全面から却下されてしまいますから、ルートの難度なども考慮しましょう。わからなければ情報をうまく聴きだす努力も必要です。社会人ですから・・・

 岩トレと同時に一般登山やハイキングも続けてください。山岳会では通常計画書と報告書を提出していますが、これらの記録により、特に報告書によってバリエーションルートへの対応力が推定できますので、必ず記録を出しておきましょう。もちろん計画書は万が一の時には労山基金の申請のためにも必要です。会では通常一泊二日のルートを二泊三日にするなど、参加者の現状に合わせて計画を立てますので、報告書の累積は判断のための重要なリソースとなります。

 

 また余談ですが、報告書は会の「財産」と言えます。山行記録、危険箇所、水場の有無、ルート状態、積雪状況など、情報を蓄積し共有することにより、安全を確保する大切なものです。もちろん現代では様々な報告がネットで手軽に入手できますが、まったく知らない人の記録には信頼性という点で疑問符をつけざるをえません。そこにどこまで真実が書かれているのか、検証する術がないからです。また、報告書は山行記録だけでなく、自然の変化を記録することにつながりますから、自然保護のためにも、記録の蓄積は大きな意味を持ちます。他のスポーツの「一人は全体のために、全体は一人のために」というモットーが山岳会にも当てはまります。報告書に意味を見出せないと、「過去(他人)から学ぶ必要はない」と考え「歴史は必要ない」という文化軽視の傾向を助長する方向につながりかねません。自然保護に興味がなければ報告書にも意味がないと考えがちです。日本勤労者山岳連盟に加入し、その理念となっている「登山は文化」を支持する当会では、たとえ小さな短いものでも、報告書の蓄積を大切にしています。

 

 さらに、バリエーションルートは距離も長く、背負わなければならないザックの重さも重くなりますから、それに対応できる体力が必要なことはいうまでもありません。山岳会では「新入会員」は全員「新人」なのですが、小学校の1年生のように全員がほぼ同じ技量・体力とは限りません。一人一人の技量・経験・体力・志向を総合して判断する必要があります。

 

 岩トレは一度や二度では技術が身につきませんので、かなりの回数が必要です。しかし、自然の岩が対象なので、会山行でトレーニングを企画していても予定通り開催できるかどうかわからない時期もあります。週末企画がすべて雨天キャンセルになってしまう時期もあります。当会では可能な限り月2回は企画するようにしていますが、会員は社会人ですので、思うようにスケジュールが合わないこともありえます。うまく歯車がかみ合えば、月2回のトレーニングに半年参加してバリエーションに行ける場合もありますし、反対に3ヶ月に一度ですと、ゼロからやり直しになってしまい、バリエーション山行に参加できるまで数年かかる場合もあります。忍耐力が試される所以です。

 

 2019年夏、当会ではスイスに遠征し、アイガー東山稜を登りました。まったく経験がなく、技術がなくても、同じルートをガイド山行で登ることも可能です。あなたは自立した登山者としてガイドレスで登れるようになりたいですか、それともガイド雇用ですべてを解決しますか? 個人ブログwindandlight.jimdofree.comで詳細を報告していますので、ご覧ください。これはどちらが良いか、あるいは優れているか、という問題ではありません。登山に対する姿勢、取り組み方の方向性の問題です。どのように登れば自分がもっとも満足できるのか、自分に適した登り方を選択するのがなにより大切です。

 

 社会人の場合、自立した登山者になろうとして焦るのではなく、じっくり技術のトレーニングをして、安全を確保できるようになることを目指しましょう。あるガイドさんは「最近の人は急ぎすぎる。10年単位で考えてくれないと・・・」と苦言を呈しています。10年までいかなくても、アルパインクライミングは「石の上にも3年」くらいに考えておくといいのではないかと思います。

 

 もし、単に「一度経験してみたい」ということでしたら、山岳会でじっくり経験を積み上げるよりもガイド山行をお勧めします。山岳会は「自分で計画して山行を遂行できる登山者の育成」を目指していますので、一度だけの経験目的の方にはあまり向いていません。当会には特別会員として、有能かつ人柄も優れた信頼できる国際山岳ガイドも所属していますので、ご紹介します。(もちろん山岳会の活動ではありませんので有料です!)