新人に必要なこと

 今回は新人として当会で活動していく上でどうしても必要なことをお伝えしておこう。

 適性という問題があるのだが、ここではとりあえず別問題としておく。

 新人として必要な事項について、前置きはなし。ずばり、地図読み能力とハイキング経験である。

 ロープ使いはお教えする。技術の習得に遅い早いはあれ、いずれ上達するだろう。

 岩登りもうまくなっていくに違いない。

 しかし、ここに落とし穴がある。

 ロープの扱いと岩登りを習っていると、「これで自分は登山ができるようになった」と錯覚することだ。

 実は、登山において一番大切なのは、「どんなときも山を自由に歩ける能力」である。もちろん身体能力が高いにこしたことはない。しかし、天気を見定め、ルートと地図を読み、しっかりと歩ける力はロープが使えても身にはついていない。

 逆にロープ使いができていれば安全だと錯覚してしまう方が危険だ。

 今はスマホでもGPSでも機械がフォローしてくれるので地図読みを重視しない人が増えている。地図がしっかり読めて機械に頼るならいいのだが、地図読みが疎かなまま機械に頼りっぱなし、というのがとても怖い。

 もっと正確にいうなら、怖いを通り越して恐ろしく危険な状態だ。

 いうまでもなく、機械は電池が切れたり壊れたりしたらアウトである。

 それ以上に危険なのは、機械に頼っていると周囲の状況を見なくなる、という点である。

 地図読みとハイキング経験はどれだけあってもありすぎるということはない。

 当会では新人の皆さんにはとにかく地図読み登山をしてもらう。この能力が不十分だと認定されると、バリエーションには参加を認めていない。地図を読みながらのハイキング経験を積むこと。これがバリエーション山行に参加許可が出る第一のポイントである。そしてこの地図読みハイキングはロープを使用する登山の前に経験を積んでおかないと身につかない。それは先にあげたように「ロープが使えるのだから安全だ」と錯覚してしまうからである。この錯覚から抜け出すのはかなり大変だ。この点を理解していただくのに次のような逸話を紹介する。

 

とある大学で、面白い授業が行われました。授業内容は「人生の優先順位」についてです。大学教授は教壇の上に、大きな壺を置きました。次に大きな石を取り出し、壺いっぱいに詰め込みました。教授は学生に、問いかけました。「壺は、いっぱいになっただろうか」一人の学生が「はい。いっぱいになっています」と答えました。教授は「いいえ、違います」と答え、あるものを取り出しました。砂利です。大きな石は入りませんが、小さな砂利なら、入ります。つぼに砂利をいっぱいに入れて、再び「壺は、いっぱいになっただろうか」と問いました。1人の学生が「いいえ。違うと思います」と答えると「そのとおりだ」と言いました。次に取り出したものは、砂です。砂利はもう入りませんが、小さな砂なら、入ります。砂で壺を満たすと、教授は再び「この壺は、いっぱいになっただろうか」と学生に問いました。学生は「いいえ」と答えました。「そうだ」と答えた教授が次に取り出したのは、水でした。砂は入らなくても、水なら、入ります。壺いっぱいまで、水を入れました。今度こそ、本当に壺がいっぱいです。教授は「何が言いたいかわかるか」と尋ねました。1人の学生が「予定がいっぱいでも、努力すれば、詰め込むことができるという意味でしょうか」と言いました。「そう来ると思ったよ。違うんだ」と大学教授は、発言しました。私が本当に言いたかったのは「人生の優先順位だ」と。「この壺は人生だ。物事には優先順位がある。大きなことから順に入れないと、後から入れようとしても入らない」教授が本当に言いたかったことは、これでした。最初に大きな石を入れなければ、砂や水で満たした後では、入れられません。物事には、正しい順番があるのです。

 

 登山もこの逸話と同じで、ロープを使ったかっこいい登山をしてみたければ、まず地図読みとハイキングという大きな石を自分の登山経験という壺に入れておかねばならない。細かな砂や水を入れた後ではなかなか大きな石は入れられなくなる。そのため当会では、ハイキング経験と地図読み能力をとても重視している。詳しくは入門講習で。

マニュエルとハイキング
マニュエルとハイキング