入会はお見合い結婚みたいなもの

 これまで記してきたように、アルパインクライミングでは様々な条件が重なって初めてパーティーが結成される。

 条件とは、技術レベル、体力、人間関係、相性、天気、資金などなど多岐にわたる。

 生命を預け合う関係なので、ハイキングパーティーのように気楽には結成できない。

 せっかく入会しても、思うような活動ができなければストレスがたまる。

 こちらもその人のためだけに予定を変更したり、都合をつけたり、余計な手間がかかることは極力避けたい。

 そのため、入会にあたってはある程度の絞り込みが必要になる。これはお互いのために必要なことなので、特に人間性に問題がない場合には、その人の欠点であるとか人格を否定するものではない。

 例えば、あまりに居住地が離れすぎていて、日常的に一緒にトレーニングができない場合には他会を紹介している。

 たまに「交通費が安くあげられてタダの講習がたくさんあるから入会したい」なんて正直な方もいらっしゃるが、もちろんお断りしている。

 日常的なトレーニングはいかないけど、ビッグルートの計画だけ参加したいという方もお断りしている。ただし、お互い力量をよく把握していて相応の実力がある場合は例外である。

 当会では活動の日程が土日祝日が中心なので、土曜日が休めない、日曜日が休めない、などの場合は他会を紹介する。

 また、活動の目的が雪壁のみ、などという場合も当会の活動としては頻度が多くないので、これも他会を紹介する。

 逆に目的ルートが単なる練習ルートで、通常アルパインの目的とは考えられないルートをあげている場合もお断りすることが多い。本当に理解が足りていない場合もあるが、山岳会をガイドがわりにしようという確信犯である可能性が高いからだ。例として二子山中央稜とか小川山烏帽子左稜線とかをあげてくる方である。最低でもこの程度はリードできないとバリエーションには出かけられない。二子山中央稜はアイゼン・手袋で登る練習に使われることが多い。新人はこのあたりをまずリードできるようになるのが当初の予定であり、通過ルートではあるものの、決して最終目的ルートではありえない。目標というのは簡単に達成できないもので、もっと難度の高いルート名になるはずだ。単なる練習やトレーニングルートが目的では心許ない。

 

 次に、若者の場合は優先的になるべく助けるようにしてはいるが、一番助けようにも助けてあげられないのは40代以上で資金難の方。

 アルパインクライミングそのものにも交通費はかかるし、トレーニングの際には宿泊費がかかることもある。

 毎回日和田に行くわけではないので、毎週とはいかないまでも、月に数回はこうした費用が発生する。装備もある程度は更新が必要となる。

 受験生を抱えていると、かなり厳しいかも・・・

 そんなときはハイキングで凌ぐ、という手もありますから。

 

 私自身、山岳会の見学やお試し山行にはずいぶん出かけた。嫌な思いをしたこともたくさんある。がっかりしたことも数えきれない。しかし、当会の前身にあたる山岳会にたどりついた。だから、当会でダメでも、他の会ではうまくマッチするかもしれないと考えていただきたい。のちに、私は自分の前で門戸を閉ざした山岳会には、後にあのときあの会に入会しなくてよかったと思うこともあったので、当会に入らなかった方もそういうケースかもしれない。

 

 それよりも、入会してしまった会で無駄な時間を過ごす方がもったいないと思う。

 「教えるから」で引っ張られて、何も学べなかった2年間、私は当時の生活環境が許してくれたので、年間120日くらい単独で山に入っていた。今はそこまで山に入り浸れないが、当時は土日はもちろん休日は全部山にいた。雪山シーズンには20泊40日くらいを単独で歩いていた。厳冬期の赤岳に単独でテントを担いで出かけるのが定番トレーニングだった。そのくらいの根性はあったから、何が足りないのかくらいは教えて欲しかった。

 「初心者」というのは何をどうしたらいいのかすらわからない、ということが、私にはわかっている。 

    教える力がないなら、いっそ入会前に断って欲しかったとも思う。

 この会にはほぼ「個人山行」しかなかったので、必然的に単独行しか選択肢がなかった。既存会員にはすでに固定のパートナーがいて、そこに割り込んだりはできないし、既存会員から誘ってもらえることはなかった。

 ちなみに、山岳会用語で「個人山行」というのは計画した人たち以外のメンバーは入れない、という意味になる。

 「会山行」であれば会員がエントリー可能だが、ルート条件によっては力が足りず参加できない。参加の可否はリーダー判断となる。

 もっとも何も学べなかったというのは言い過ぎかもしれない。少なくとも2年間で5本の指で数えられる程の会山行の中で、3回は死にかけて、ビバークの仕方だけは実地で学んだから。

 一人で道を模索した後、見切りをつけて労山の会に移籍したら、周囲に比較の対象ができ、私は自分がかなり強くなっていたことに気づいた。

 移籍後すぐに新人対象の会山行で富士山雪山トレーニングがあり、締め括りの下山時に「新人が先に降りてよい」と言われたので、単独時の調子で下ったら、後ろから誰もついて来なかった。ヒマラヤ帰りだった当時のリーダーは「新人に追いつけないなんて、そんなバカな」と思ったらしい。「最初はこの辺りで追いつくはずと思ったのに、影も形もないから、おかしい、と思って、途中で必死になって追いかけたけれど追いつけなかった、お前は何ものだ?」とのこと。いえ、単なる他会での落ちこぼれです・・・

 

 このように参加できる山行がない山岳会にいても虚しいだけ、という経験をしているので、希望者の参加が可能な範囲に会員を絞るのが当会の現状である。リーダーが増えて複数の計画が立てられるようになるまで、しばし猶予をいただきたい。一生懸命リーダーを育てます。

 

 だから、ここがダメなら、ハイ、次の会。新しい出会いを求めていただきたい。

 というわけで、山岳会入会はお見合いみたいなものなので、自分に合うところを見つけましょう。

 それぞれの山岳会に長所があるものです。

 なにぶん当会は人数が少ないので、安全を確保できる入会者数には限度がある。

 お見合いでいうと、これはこちらの短所ですね。

 今後、その限度枠を広げられるようリーダーの養成に努めたい。

 

 そのほかの注意点としては、アルパインクライミングに出かけると、数日間連絡が取れない、などということも十分考えられる。

 そのため本人のみならず家族に健康不安のある方も入会をお断りしている。

 心配のあまり家族が心臓発作でも起こしたら一大事である。

 家族のことなどどうでもいい、というのは人間性に問題があるし、常に家族の心配をしているのではトレーニングにも打ち込めないからアルパインはやめておいた方がいい。

 

 ちなみにアルパインクライミングはスポーツではない。

 スポーツの定義の大前提は、「人間がルールとフィールドを決められ、ある程度のコントロールが可能である」ことである。そしてスポーツでは決められたルールを守っている限り、怪我はしても生命が危険に晒されることは滅多にない。

 いうまでもなく、アルパインは自然がルールなので、人間は自然が提示する文字なきルールを読み取り、それに対応していく必要がある。そのためにフィジカル面の能力が必要なので、スポーツによく似てはいるのだが、実際のところ、怪我はするは生命の危険は身近だは、かなり過酷な活動なのである。こうしたアルパインの特性をご家族にもよく理解していただかなくてはならない。もしご家族に反対されたら、やはり諦めていただいた方がいい。

 

 別の記事でも書いたことだが、アルパインクライミングには岩場テロの危険がある。

 岩場テロ、ルートテロとは未熟なクライマー訓練生がしっかりしたトレーニングとアドバイスなしにルートに入ってしまい、前にも進めず退却もできず、後続パーティーがトバッチリを喰らうことである。ひどい場合は落石をおこされて、後続パーティーが怪我をする、などというケースもある。

 こうなると、自分たちがいくら技術を磨いて臨んでもなす術がなく、結果ビバーク、最悪ヘリ救助、などということにもなりかねない。自業自得なら防衛策を身につけられるが、文字通りトバッチリなので、どうしようもない。そのときに携帯電話の電波が通じない、という可能性はおおいにありうる。

 だから、アルパインクライミングを志向するなら、家族との関係はとても大切である。

 別の山岳会では今話題の不倫カップルが事故ってヘリ搬送され、互いの家族は登山計画も知らされておらず、怪我よりも別の問題が発生して病院で大騒ぎになったこともある。というか、こんなことは結構な頻度でしょっちゅう起きている。テレビ見ていたら、夫や妻の名前が放送されて遭難を知ったという例もある。これも大騒ぎである。

 大変なんだなあ、にんげんだもの・・・

 というわけで、アルパインクライミングはけっこう危ない。

 安全には気をつけているけどね、それでも100パーセントの保証はありえない。

 このあたりもお見合い結婚に似てるかも・・・

 心されたい。

ドイツ遠征
ドイツ遠征