当会の教育システム

 登山教育を提供しているというと、必ず、カリキュラムを開示せよなどと言ってくる人がいるので、先回りして告知しておく。

 特に開示していません。

 今後も開示するつもりはありません。

 なぜか。

 当会ではひとりひとりに密着した指導をするから、である。

 加えて、相手は自然である。予定していたって天気の都合でうまく進まないこともある。

 おまけに、万人に通用するアプローチなんて幻である。

 テキストとして使用するのはUIAAの総合登山ハンドブック(2020年5月刊行予定)である。

 これをその成り立ちの哲学から理解して、「どう」教えるか、なのだ。

 何を教えるか、ではない。

 形式だけ、手順だけを教えればいい、というものでもない。

 情報を与えて満足している人々の誤解はここにある。

 なんでもかんでも情報を与えればいい、というアプローチは教育の本質を理解していない人たちのすることだ。

 なんでもHPに載せている団体もあるけれど、それで登山者が育つなら、世の山岳会は苦労していない。今は情報を得るのに苦労することはない。だが、その情報だけで登山技術を身につけるのは、不可能とは言わないがとてもハードルが高い。(ネット知識だけで技術を身につけたクライマーに会ったことがあるから不可能とは思わないが、それはとても稀有な人だったのだと思う。)

 やはり、ここは丁寧な指導が必要となる。

 「丁寧な指導」とは、なんでもかんでも情報を与えるということではなく、成長に合わせて、的確なタイミングで、必要な技術を伝え、その長所と短所、欠点の克服法を提示しつつ繰り返しの練習を行い、共にトレーニングを行うことである。

 山行にはアドバイスを送り、安全を気にかけ、下山を見守るのも山岳会の役割である。

 そのための総合山岳会である。

 やっぱり、「指導しない」と断言する山岳会なんて山岳会じゃないよ。

 口先で「教えるよ」と言われて入ったのに、全然教えてもらえないんじゃ、ガッカリすると思う。

 少なくとも私はがっかりした。アルパインの適性がないせいで教えてもらえないのではないかと暗闇で模索した。

 インドアジムではなく、屋外で岩登りをしたいのに、基本も教えてもらえないんじゃ手も足も出ない。

 それ以上に、わずかに教えられた技術が古すぎたら目も当てられない。

 ツールの更新もしないんじゃ、正気の沙汰とは思えない。

 何が足りないのか指摘してもらえなければ努力のしようもない。

 正しい努力をしているのかどうかわからないままでは不安でたまらない。

 登山教育は「その方向でいいんですよ」とか「こうしましょう」などのちょっとした助言から始まる。

 学ぶ途中にある人に、「こんな技術もある」「あんな方法もある」と情報だけ溢れさせても、教える側の自己満足にはなっても、受け取り手は何も身につけることができず、ただ混乱するだけだ。

 よい講習とは、すべてを手取り足取り教えることではない。その意味では「背中を見せる」必要もあるが、背中だけではやはり足りない。

 今足りていないのは、体力なのか、地図読み能力なのか、登攀技術なのか、クライミング力なのか、危機管理能力なのか、あるいはそのすべてなのか。

 足りないものを補うのに、どうしたらいいのか。自主トレなのか、ハイキングなのか、インドアジム通いなのか、など、初心者にはわからないことだらけなので、的確にアドバイスするだけでも随分成長の度合いが異なる。

 当会の教育システムの特徴を挙げろと言われたら、「なぜこうするのかと言う理解の上に、受講生の立場に立った、きめ細やかな指導体制にある」とお答えしよう。

 受講生側も、アドバイスしても成長しないとしたら・・・申し訳ないがアルパインクライミングの適性がないのである。

 ハイキングが基本だと以前も指摘した。ハイキング経験が足りなければ、アルパインは無理だ。しかし、助言しても実行しないのであれば、それはご本人の勝手である。

 残念ながら、これも適性不足である。行動する(ハイキングに行く)のはあなた、である。稚拙であろうが、レベルが低かろうがそんなことは問題にしていない。現象として、行動(山に行く)が伴うか否かである。その行動(山に行く)の意味がわからない、などと後から寝ぼけたことを言うくらいなら、アルパインには近づかないことだ。

 適性がないと判明したら、アルパインクライマーになることはすっぱり諦めて、ガイド利用に切り替えるか、ハイキングに専念していただきたい。

 だが、どんな活動をしていても、「この活動を通じて私は成長を感じられる」というものがあれば満足感が得られるのではないかと当会では考える。

 それは岩でもハイキングでも同じことだ。

 だから、当会では活動に優劣はつけておらず、どの種類の登山をする会員にも長く在籍してもらいたいと考えている。

クライミング講習の一コマ
クライミング講習の一コマ