オフェンスとディフェンス

 アルパインクライミングはスポーツではない、ということを前提に、擬似スポーツとして、スポーツの概念だけを利用して説明しておきたい。

 スポーツのなかでも、オフェンスとディフェンスがある競技と、ない競技がある。

 ある方の代表は、サッカー、野球、テニスなど、相手がいて対戦するゲーム形式のスポーツだ。これらは一人でも練習はできるが、できれば相手がいた方が楽しい。

 防御と攻撃がないスポーツはと言えば、採点競技や記録競技である。たとえば、フィギュアスケート、マラソン、ダンス、体操など。こちらは採点なしでも、一人でも楽しめる要素が強い。

 登山はどうか。ここでも登山がスポーツではないことがはっきりする。

 条件が違い過ぎればゲーム形式にはならないし、ゲームにする意味がない。採点や記録も取りづらい。

 登山はどちらかと言えば採点競技や記録競技の要素のほうが強い活動なので、ゲーム競技で顕著なオフェンスとディフェンスという概念は適用されることが少ない。

 しかし、登山は「自然」が相手となるので、これを考慮すると、ゲーム同様、やはりオフェンスとディフェンスが必要になる。

 さらに、自分自身やパートナーに対しても、もう少し頑張ろうとかここを登りきろうなどというオフェンスすなわち「攻める姿勢」と、不測の事態があった時に対応するディフェンスすなわち「守る姿勢」が必要になる。

 登山者にとって、歩く力、登る力はオフェンス要素であり、それに対して、プロテクションを取ったり、救急やレスキュー技術を身につけたりするのはディフェンス要素となる。

 対戦相手が自然のみならず、自分やパートナー、パーティーメンバーとなることもあるし、これらすべてが味方陣営になることもある。

 そこに定型の明文化されたルールは存在しない。

 攻撃と防御と。

 人はとかく攻撃能力ばかり磨きたがる。

 走ってみたり、ジムに通ったり。これらはもちろんとても大切な基本である。

 武器を持ったり、道具を集めたりするのが大好きな人も多い。

 これらは攻撃力の象徴だ。

 だが、登山の安全、生きて山から帰るためには、とかく忘れられがちな防御力も必要だ。

 天気図の見方、地図の読み方、観天望気(この言葉を知らない人は義務教育での勉強不足、理科で習います)、クライムダウン、敗退の方法、セルフレスキュー、登り返し、などなど。

 オフェンスは車のアクセル、ディフェンスは車のブレーキ、とも言える。

 いくらカッコいいスポーツカーや高級なセダンでも、ブレーキの壊れた車に乗りたい人はいない、はず、たぶん。

 登山も同様である。

 オフェンスとディフェンスのバランスにこそ、注意をむけていただきたい。

登り返しは必須ディフェンス技術
登り返しは必須ディフェンス技術