ハイキング経験すらない初心者の方へ

 初心者の方で多いのが、インドアジムでクライミングを始めてしまい、クライミング経験の最中に「アルパインクライミング」と言う超魅力的な登山スタイルがあると知り、突然挑戦したくなるケースである。

 フリークライミング は結果として道具を使わず壁を「フリー」で登るための活動なので、登るルートへのアプローチは近い方がいい。壁はゲレンデと呼ばれ、整備も進む。

 かたやアルパインクライミングはルートの取り付きが近いわけではなく、山に登るルートの一部に岩壁がある。つまり、登山の一形態なのでピークハントも含まれる。支点の整備は普通そう頻繁には行われない。

 したがって、アルパインを目指すなら、クライミング力だけでは足りず、一般登山、ハイキング経験が豊富でなければならない。

 だから、インドアジムから突如、アルパインクライマーを目指されても、圧倒的に山登りの経験が不足している。

 当会でもそのような場合はハイキングにも精を出すように指導する。

 ハイキングが嫌いなら、アルパインには向いていないから、フリーだけしててください。

 そういう「山岳会」もありますから。

 アルパインクライミングを目指すなら、なにも言われなくてもせっせとハイキングばかりしているくらいでちょうどいい。

 これは一朝一夕には得られない山での経験を積むためにも必要だ。

 と言うと、頭の悪い人は、一週間とか10日とかを南北アルプス縦走するような計画をドンと立てる。それを何度も繰り返すのならいいのだが、一回こっきりで終わり、というケースが多い。アホか。

 経験を積むには短くても回数が多い方がいい。

 10日縦走を一回よりも、一泊2日を季節ごとに何回も繰り返した方が経験の蓄積には適している。

 できれば各山域を満遍なく、季節も満遍なく、同じルートばかりでなく、歩いておきたい。

 よほど好きで山にいたいなら10日でも20日でも山籠りしてもいいが、そんな極端なことは普通の勤め人にはできないし、無理をしてやってみても、過剰な努力はどこかで回収されてしまうものだ。できるとしたら、体力が有り余っている10代20代の若者であろうし、その年代の者が熱に浮かされて思わずやってしまった、というのは経験として残るだろう。しかし、ふつうの社会人は、そんな登山を目指す必要はない。

 ここまで説明しても理解できない人もけっこう存在するので、例え話をすると・・・

 バレエの舞台をみて感動して、突如バレリーナになりたい、一年後にはプリマとして白鳥の湖のオデット姫を演じたい、などと、トゥシューズも履いたことのない人が真剣な顔で言い出したら、「こいつ、正気か」と思われるのがオチだと思うのだが、なぜかアルパインクライミングだとそのレベルのことがすぐにできると思ってしまう人が多いのはなんでだろう???

 まずは、バーレッスン。

 いきなり舞台のまんなかでジャンプしないでください。

 アン、ドゥ、トロワ。

 ハイキングですよ〜

 ひとつだけ、アルパインクライミングという舞台に手取り早く立つ方法がある。

 バレエも同じだが、自分だけの舞台を作ってしまうのである。観客も金に任せて集めれば、ぶざまな踊りでも目をつぶって許してくれるでしょう。

 当然お金がかかる。金に糸目をつけない人にしかできない。

 アルパインはバレエほどのお金はかからない。観客はいらないから、ガイド料だけで済む。

 バレエより安上がりだな。

 山岳会はどちらかというと、観客に感動してもらいたくて練習に励むバレリーナのようなクライマーを育てたい。

 バレリーナだってバーレッスンから練習しているのに、ハイキングせずにアルパインクライミングができると思うのはなぜ??? 

    もっとも山の場合、観客はいないから、感動するのはクライマー自身でしかない。

 感動のためには練習も楽しい。

 そんな志向の人にこそ、アルパインクライミングは向いている。

宮崎・比叡山にて
宮崎・比叡山にて