小川山セレクション

    ようやく小川山に入れるようになった。
 しかし、梅雨真っ最中。
 それでも日頃の行いのせいか、この土日は天気が好転したので、初日は小川山セレクションのマルチ6ピッチのルートへ。
 のんびりムードで取付に詰めると、3人パーティーがいた。ガイドパーティーで、50代の男女二人のお客さん。最初のクラックから「登れない」と騒ぎながらぶら下がっている。次のスラブもガイドさんに励まされながら、なんとか突破。私たちは後ろからなるべく間を詰めないように、つまり圧迫感を与えないように登っていく。
 ずいぶん待ってから出ているのだが、3ピッチ目のチムニーを私がリードしていくと、前が詰まっていた。二人のお客さんは4ピッチ目の出だしが登れず、ガイドさんからは見えず、声も通らない場所なので、思わず、アドバイスしてしまう。ひとり目がロープを絡めて焦ってオロオロしているので、ここもアドバイス。二人目も登れず、「登れません」と大騒ぎになるが、こんなところで時間を取られてもしょうがないので、アドバイスしながら励ます。ようやく登ってくれたので、また後ろからゆっくりゆっくり登る。もちろんトラバース手前でも待ち続ける。すると、お客さん、カムを落としてしまう。道具を落とすと下の人にも危ないが、なによりも次のピッチに影響がある。しかし、ガイドさんとしては、カムを落とされても最終ピッチを登るしかない。お客さんはカムを弁償するとプラス1万円・・・最終ピッチも大騒ぎしながら抜けていった。どれだけ待ったか…
 これでガイドだと4万円とのこと。
 ウチの会だと少しトレーニングができたら登るルートだが。30代で毎月最低2回から3回4日から6日、それを半年から一年くらい続けるくらいの岩トレが目安。プラスしてジムクライミングも。岩トレ参加しなければ、一生無理。もちろんガイドのお客さんたちもそこそこの経験はあるらしい。話しているのを聞いていると、クライミングを始めて10年は経つらしい。ガイドにも通い込んで、ようやくセレクションにチャレンジできるようになったらしく、チャレンジ自体が嬉しいのだろう。ところが、最後の懸垂が不安とのことで歩いて降りていった。懸垂ができない、って、ガイドについてて、そのレベル?ガイドもお客さんに懸垂の練習させないの?セレクションはなんとかなったとしても他のマルチは登れないのでは。でも、たぶんセレクションが目標、というか、一生の思い出にするために来たんだろう。ちなみにクライマーにとってセレクションは目標にはなり得ない。練習ルートでしかない。セレクションレベルを目標です、と言ってくる人は山岳会をガイドがわりにしようとしているのがあまりにも明白なので、入会をお断りする。
 しかし、ガイドでセレクションを登れれば、それはそれでいいのではないかと思う。こうやって、経済はまわっていくのだから。夜の街やパチンコなんかに使うよりずっといい・・・

    このガイドさんの場合、岩トレは1日15000円なので、お客さんはだいたい毎月6万から9万プラス交通費と宿泊費を払い、基本を身につける。といっても、ガイドの後をついていくための基本なので、自分で登れるようになるための基本ではないから、登り返しや自己脱出なんかは教えてもらえない。こういうタイプのガイド講習では、人の後についていくためだけの練習をかなりの講習費を払いながら数年は続ける必要がある。ガイド料を払い続ける意思も強固でないと、なかなか難しいし、こういうお客さんたちはこれから自分ではのぼれるようにはならないだろうけど、それはそれでいいのではないかと思う。40代過ぎたら、ガイドで登る選択肢もあると思うし、潜在的に現実認識の甘い人はガイドをお勧めする。もっともその見極めが自分でできなければ仕方ないが。
 以前、他会の人を連れて登ったときの写真を一枚あげておく。私たちは何人もセレクションを登らせている。この人たちはその後頑張って自分の会で研鑽を積んでいるが、クライミングをやめてしまう人も多い。まあ、そんなものかもしれない。なかなか一人前にはならない。なれない、と言った方がいいかもしれない。クライミングもセンミツの世界なので…クライミングに没頭しないとほぼ一人前にはならない。

    何度も言うが、普通の勤め人なら、時間と資金の点から他の活動との両立は一切できない。それどころか、人との付き合いも切り詰めて節約しないとトレーニングにも行けない。多くのクライマーがパラサイトシングルで、結婚している場合でそれなりの職についているディンクスでも親の家に転がりこんで家賃を節約して遠征費用を捻出している。ガイドにつくなら費用はなおさらかかるが、山岳会でもそこそこかかる。そこまでする気がないなら(覚悟と言っても過言ではないが)、そういう気持ちがないなら、早めにハイキング志向にしておこう。たまに思い出したように一回や二回岩トレに参加するくらいでは一生モノにはならない。日和田レベル、今回のお客さんレベルになれれば万歳である。私たちもあんまり無駄打ちしたくないので、会員に努力する可能性がなさそうな場合、つまり岩トレに継続して参加する気がなさそうならこちらからわざわざ声をかけてまで面倒みるつもりはない。ちなみに他会はもっと敷居が高くて高難度が登れないと相手にしてもらえないか、レベルが低すぎて小川山自体に来られる状態にない。そんな時にはセレクションはガイドさんに頼むしかない。大金払うんだから、大事にしてもらえますよ。同じ金額使うなら、私だったら自分で登れるようになりたいけど、そこは人それぞれなので…

 ガイドにお金払いたくない、あるいはそこまでの資本力がない、だけどお客さん扱いしてほしい、でも礼儀作法は守りたくない、当然のように常識なんか無視する、トレーニングのスケジュールは合わせられないから面白い計画だけ選びたい、他の遊びの片手間で、ウェブの打ち合わせすら出られない、なんて都合良すぎじゃない?結構説明してるんだけど、理解してもらえない部分も多い。とにかく命がかかってるんでね…

 5ピッチ目のトラバースは濡れていた。

 新緑が眩しい。

 気温は高くなく、低くもなく。

 セレクションは日照がいいので、これ以上になると暑い・・・

 今シーズンは山小屋も開かず高山に行けないので、このルートに人が押し寄せる・・・と先行パーティーのガイドがお客さんに説明していた。今日登れてよかったですね。