地図読み再考

 会員募集を再開した時に、あまりに皆さんが地図を読まないので驚いたことがあった。

 断言できるが、山歩きを相当こなしていないとアルパインに移行できない。しかも、バリエーションルートでは地図読み能力は必須であり、地図を読めるということは実際の地形にも留意していることになる。これは単にスマホアプリのGPSで現在地を把握するだけでは足りないのである。

 地図読みの力は、北アルプスなどの明瞭な有名登山ルートを指導標を頼りに歩いているだけではまったく身につかない。 

 丹沢や奥多摩などの登山を繰り返し、意識して地図を読み込む方がよほど実力がつく。

 登山経験が少ないと思われる人に「ぜひ丹沢や奥多摩、奥秩父を歩きこんでください」とアドバイスするのだが、多くの場合不服そうな顔をされる。だが、アルパインは登山道のない場所を行くので、複雑な地形という点では丹沢や奥多摩、奥秩父の方が地図読み能力アップには適している。

 二万五千分の一の地形図の存在も知らず、地図の凡例すら知ろうとしない中高年が「体力があるからアルパインを」というのは道迷い遭難予備軍となる。道迷いの末の転落滑落は、地形に関する基本的な認識があれば防止できる可能性が高い。

 今回は地図読みで見落として転滑落につながりそうな点を指摘しておきたい。

 まず、すぐに転滑落につながるような、危険とわかる岩や崖の印は地図でもゲジゲジ状でかなり目立つのでチェックしやすい。だが、下の凡例で赤線を引いた「雨裂」はどうだろうか? 今まで雨裂をどれだけ意識して地図を読んでいたか、確認していただきたい。

 ちなみに雨裂は五万分の一の登山地図では確認できない。当会会員はしつこく言われているのでお分かりと思うが、登山で使用する地図の基本は二万五千と五万の両方である。片方だけでは情報の補完ができない。日常的に五万しか使用しない山岳会はそれだけですでに遭難予備軍である。

 まず凡例をしっかり見ておこう。

 雨裂とは文字通り、雨で地表が削られたガリー状の地形で、図では1mm以上、実際には25メートル以上の谷状地形となっている。ちなみにガケの場合は5メートル以上の高さとなる。ガケならば流石に落ちたら死んでしまう高さだとわかるが、雨裂を見過ごしてしまうとやはり命に関わる。等高線の混み具合によって雨裂がそれなりのガケになっている箇所が少なくない。

 登りで行く手をガケに阻まれたら迂回すればいいのだが、問題は下り、下山時である。上から目視してもこうした雨裂はわかりにくいことが多い。

 実際の地図に雨裂が記載されると次のような表記になる。以下に示したのは月山の近くの湯殿山まわりの地図である。

 赤線で示したように、この地図では数多く出てくるので、「これはなにかな?」と考える人も出てくるかもしれない。

 しかし、以下のような例ではどうだろうか。これは奥多摩の日原鍾乳洞付近の地図である

 赤丸で囲んだ部分に突然「実線と点」の雨裂印が出てくるのだが、注意して見ていかないと見過ごす可能性が高いのではないだろうか。しかも等高線の間隔がとても狭くなっているので、30メートルはあるようなかなりの急傾斜、ガケといってもいいくらいの傾斜となっている。ガケならば5メートルの高さだが、雨裂の場合は25メートル以上なので、はるかに危険度が高くなる。日原付近の地図でよく確認してみていただきたい。奥多摩にはこうした「ポツンと雨裂」しかも「ガケ並の急傾斜」という地点が多く存在している。

 この赤丸地点の危険性はそればかりではない。この地点の右寄り(西)から北東方向に、かなり明瞭な尾根が派生しており、尾根の伸びている先をよく確認しないと、下山時にはこの雨裂に誘い込まれて滑落する危険が出てくる。

 下山時には尾根に乗っていると安心感からつい気を許してしまいがちなのだが、この雨裂は文字通りの落とし穴と言えるだろう。

 もし季節が夏なら、覆い茂る木々やブッシュのため、落とし穴の存在を見落とす可能性も出てくる。

 しかし、慎重に行く先を確認し、雨裂の存在を予測していれば、危険を回避する行動に繋げられる可能性が高くなる。

 こうした地図読みの初歩をしっかり学ぶことのできる丹沢や奥多摩、奥秩父の山歩きの重要性を今一度肝に銘じておこう。

 さらに、地形図に親しむことにより、「地図の限界」を意識することにもつながる。等高線は10メートル間隔なので、9メートルまでのアップダウンは地図に表記されない。窪地や小さなピークは地図に記載されないこともある。実際に歩いて地図と照らし合わせて初めて地図の限界もわかってくる。ガケは高さ5メートル以上が記載されているが、高さばかりでなく幅もかなりないと地図には記載されない。そのため小規模なガケや雨裂だと地図には出てこない。この事実が頭に入っているかいないかというだけでも意識の持ち方が変わってくる。ぜひ二万五千分の一と五万分の一の地図を携帯して、地図読みに特化した訓練山行を十分に行ってほしい。いざ本チャンに出た時に、助けになるのはこうした基礎技術だ。スマホのアプリ頼みだとこの能力は永遠に培うことはできない。