その技術、本当に安全ですか?

 全国登山研究集会が終了した。

 

 区切りが良いので、この半年の間に何件も遭遇した事案について紹介しておこう。

 基本的にスタンダード化されていない登山技術ではあるが、それでも「なぜこのセットを行うのか」「どのように安全のためのバックアップを取っているのか」などを考え合わせて危険を制御する、という理解が足りていないのが現状のように見受けられる。

 

 まず、次の写真を見ていただきたい。

 リードアンドフォローやツルベで登る際にリードがフォローを確保する際のセットをしているのだが、ペツルの金具に直接ビレイ器具をかけている。通常の流動ないし固定分散セットはしていない。つまり、この金具が破損したら一貫の終わりである。アルパインルートでは、支点の取り方が最重要なので、その見極めを含め、基本に忠実でなければならない。またビレイ器具の仕組みを考えれば、このセットでは安全が確保されていないことがわかるはずだが、その「基本の仕組み」がまったく理解されていない例である。

 このとき、指導者は岩場でタバコを吸いながら、さらに何本もビールや酎ハイの缶をあけていた。これは飲酒運転と同じである。しかし、こうした指導者のいる山岳会も散見されるので注意していただきたい。

 

 二件目はよく見かける光景である。わかりにくいかもしれないが画像をご覧いただきたい。

 マルチの3人登攀でダブルロープ使用のところをシングルロープを2本使用し、さらにその2本をツインロープ扱いにして一つのカラビナに2本ともかけている。鋭角の岩角が多い、アックスを使う、など、ロープを切ってしまう可能性があるならシングル2本も考えられるが、このルートではシングルをツイン使いにすると特に流れが悪くなるし、3級ほどで墜落の危険もない場所であることがわかるが、どういうわけか、グレードやルートに関わらずどんな場合にもロープをツイン扱いしているパーティーをよく見かけるようになった。それよりもこの場合は3人登攀なので、ロープはずっと擦れ続けることになる。いうまでもなく、シングルロープ、ハーフロープ、ツインロープにはメーカーによってもそれぞれの使用法があるので詳細は説明書をよく読んでいただきたいが、まず、それぞれのロープの耐久性、性能により、3人登攀ではツイン扱いしてロープ同士が擦れて破断する危険も出てくる。いうまでもなく他のグループのロープと交錯するのはご法度である。もちろんロープの流れが悪くなると重くなるのでリードには負担が大きくなる。

 ツインロープは元々、かなりエクストリームなクライミングで使用することを想定している。常に2本一緒に扱うので、理屈の上ではロープ同士の摩擦はない。ただ2本で一本だからツインロープではダブルロープテクニックは使えない。3人登攀もできない。シングルもダブルもなんでもかんでもツインロープとして使用すればいい、というものでもない。また、シングルロープ利用、ハーフロープ使用、ダブルロープテクニック使用など、登攀技術はルートの形状、岩質などにより選択するべきであり、それを無視して一律にロープやテクニックを選択することはあり得ない。日本の夏のクラシックルートではグレードが高くはないからツインロープを使う必要はほとんどないし、支点の取り方が左右にジグザクになりやすいルートが多いのでハーフロープでのダブルロープテクニックが推奨される。登攀後の懸垂下降も考えるとダブルロープが選択されるケースが圧倒的に多い。

 最近見かけるシングルダブルなどのシングル利用可の細いロープはトップロープに使うのではなく、アイスクライミングなどに使用すると考えた方が無難なのだが、軽いからという理由でインドアジムで使用していたりするケースも散見されるようになってきた。シングルダブルロープにはかなりの伸びがあるから、使用禁止にしているインドアジムもある。インドアジムであまりに細いロープを使っているので声をかけたところ、やはりダブルロープだった。「もらったロープなので」とのこと。さらに聞いてみるとロープに種類があるということも知らない、シングルロープとダブルロープの区別も知らないという。ダブルロープ1本でリードしているので、ジムの店員に注意してあげてほしいと頼んだところ、血相変えて「ウチではダブルロープ禁止です!」と言いにいっていた。また、外岩でダブルロープ1本でトップロープにしているグループがいて、思い余って声をかけたら、大学山岳部のトレーニングだということで、「部費で買っているロープだから傷んだら買い替えるからかまわない」とのお答え。いや、そういう問題ではないのだが・・・その大学の山岳部ではそれが伝統らしいので、説明はしたもののあまりに言い張るので、それ以上説得するのはやめておいたが、どこかできちんと指導してあげてほしいと思う。

 

 次の例も見かけることが多い。基本的にトレーニングや練習ならば、危険要素を最低レベルにしておくべきだろう。

 

 クライミングゲレンデで、周囲にペツルのステーションが多数あるのに、わざわざ危険を取りに行っている例である。この支点ならばラッペルダウンしなければならないが、ロウアーダウンを選択していた。自然物は安全とは限らない。このケースはそれ以前に、ステーション利用すべきだろう。アンカーに届かないレベルならばリードさせてはいけない。

 これと似たケースで、アルパインルートの岩場でのぼれなくて、ガンガン落ちては登るというスポーツクライミングの登り方をしているグループも見かけるようになった。ハーケンやリングボルトなど、スポーツ用に打たれた金具でないなら、その脆弱性にはよく留意しなければならない。静荷重でテンションをかけるならまだいいが、衝撃荷重には耐えられないアンカーも多い。特に日和田では、案内やガイドにもボルトが脆弱なので基本的にトップロープの岩場だと紹介されているのに、特にアルパインルートしかない男岩でランナウトして落ちるなど、ありえない登り方をする人たちまでいる。岩場の特性も考えて登る必要があるのが日本の現状である以上、支点の強度も見極めが必要となる。

 何のためのトレーニングなのかをまったく考えず、トレーニングで怪我をしたり死んでしまっては意味がない、という点を念頭においていない山岳会も多くなってきた印象がある。技術の仕組みを理解せず、形だけ教えてもらうのは、応用もきかず、危険が増幅するのみである。

 

 結局のところ、技術をひとつだけ覚えておけばすべて事足りる、わけではなく、その場、その状況、どういうクライミングをしているのか、どういう登山をしているのか、に合わせて技術を選択し、そのメリットとデメリットを理解して使用する、使い分けをする必要がある。伝統も大切だとは思うが、技術に関しては外部と交流して、独自の使用をしていないか、確認する必要もあるだろう。ガラパゴス化している山岳会ではエイト環でないと懸垂できないと思い込んでいたり、何がなんでもスリングは手作りに徹していたり、日常的にカラビナにムンターでビレイする人までいて、伝統の呪縛から洗脳を解くのがひと仕事、というケースもある。

 

 当会も山岳会ではあるが、基本に忠実な技術を常に会員にフィードバックし、理論の上からも技術を理解し、習得するように指導している。疑問点については、UIAA登山委員会、安全委員会に直接問い合わせ、実地での指導を受け、労山各地方連盟および各会へのフィードバックを行っている。